マイナビ

トレンドnavitrend navi

パーパスは策定してからが重要。 発見・共鳴・実装を経て社員ひとりひとりのものへ

Ideal Leaders株式会社 丹羽真理 × 株式会社マイナビ 西達矢

企業のあり方を模索する概念のひとつであるパーパス(purpose)とは、企業の存在意義を表す。欧米で生まれた考え方だが、近年日本でも大きな注目を集めている。マイナビも2022年からパーパスの策定に取り組んだ。今回は、この策定プロジェクトの事務局長を務めた取締役 専務執行役員の西達矢が、パーパスを日本でいち早く紹介したアイディール・リーダーズ株式会社の共同創業者でありCHO(Chief Happiness Officer)の丹羽真理氏と対談を行った。パーパスの策定と、その後の取り組みについてどんな議論が交わされたのだろうか。

 

働く人の価値観の変化によりパーパスの重要性が高まっている

 

西達矢(以下、西):マイナビは2023年に創業50周年を迎えました。そんな節目と社長交代のタイミングが重なったことをきっかけに、22年にパーパスを策定したんです。今、このようにパーパスを策定する企業は増えていると思うのですが、丹羽さんは現状をどのように見ていらっしゃいますか?

 

丹羽真理(以下、丹羽):私の著書『パーパスマネジメント 社員の幸せを大切にする経営』は、日本のビジネス書の中で最初にパーパスについて書かれたと言われていますが、これが出版されたのが18年で、まだその頃は“パーパスってなに?”という感じでしたね。私の会社でも、“パーパス経営のコンサルティングをやります”とずっと言っていたんですが問い合わせも全くなくて。でも、20年ぐらいから急にパーパスという言葉が流行り始めました。流行の背景にあるのは、働く人たちの価値観の変化ですね。特に若い人たちは、何か数値目標を掲げて“よし、やるぞ!”と言うだけでは、モチベーションは上がらない。「この仕事は何のためにやっているのか」「世の中をよくすることとどう繋がっているのか」ということに関心が高くなっているんです。それを明確にしないと、人も集まらないし企業の価値も上がらないという危機感を持っている方々が、パーパス策定に取り組むことが増えているのではないかという印象を持っています。

 

西:マイナビでは2021年、経営体制が変ったことを機に改革を進めたいと考え、その土台・基礎としてまずパーパスを策定しようとみなに声をかけたのがきっかけです。とはいえ、それまでマイナビの背骨になるような考え方なども明確にはなっていなかったので、まずはそこから着手しました。執行役員クラスのメンバーを30人ぐらい集めてワークショップを行い、我々はどういう存在で、これから何をしていきたいのか。社会とどう関わりたいのかといったことを、半年ぐらいかけて考えていきました。

 

丹羽:皆さんで議論して作られたんですね。私たちが支援する場合も、多くの社員を巻き込んだワークショップ形式を取ることは多いです。ただ、時間はかかりますよね。社長のトップダウンや、コピーライターの方に考えてもらうというのは短時間でできるという意味では良いのかもしれませんが、その後の展開が大変になるんですよ。“なんでそういうパーパスになるの?”と納得できない人も出てきますから。

 

 

西:はい、実はワークショップと並行して社員にアンケートも取ったんです。ポジティブなことだけではなく、“今のマイナビからなくしたいこと”や“もっとこうしたほうがいいと思うところ”などをダイレクトに聞きました。そんなことを聞くこと自体おかしいというお叱りもいただきましたが、結果的に返ってきたのは3000通あまり。マイナビ本社社員が8000人ぐらいですから、まあまあの回答率ですよね。マイナビはいろいろな事業部がありますが、事業部ごとの棲み分けがあって、なかなかシナジーが生まれにくい。それがストレスになっているというような意見もあって、読んでみると僕自身が感じている改革したいことと同意見も多く、スタート時の励みになりました。

 

丹羽:理想を言えば、8000人社員がいるとしたら、8000人で話し合って言葉にするといいんですよね。そうしてできたパーパスは、みんなが“あれを作ったのは自分だ”と言えます。自分事になっているので、これはどういう意味で……といちいち説明する必要がない。とはいえ、全員が集まるのは大変ですから、部署をまたいでとか、いろいろな人の観点が入ると良いと思います。マイナビさんは、最終的にはどのようにパーパスを決定したんですか?

 

西:アンケートの他、社長や事業部長などにインタビューを重ねて網羅的に作業をしていきましたが、最後に言語化するときは、社長が“自分はこう思う”ということをかなり明確に言いました。“画竜点睛”じゃないですが、最後に竜の絵に瞳を描き加えるみたいな感じでしたね。どうしても言葉って、好き嫌いがあるじゃないですか? 誰にでも響くフレーズを考えるのは難しいと感じていたんですが、最後に社長の意見でフレーズがまとまってキュッとしまったパーパスができたかなと思います。

 

パーパスが実現したら?ありたい姿を想像すれば、ワクワクしながら働ける

 

 

丹羽:西さんのお話を伺って、パーパスを作って会社を変革しなければというところからのスタートだったことがわかりました。次に来るのは、パーパスはできたけれど、これからどうしていけば良いの? という話ですね。今まではこうだったけど、これからはこうしていった方が良いよねと、社員ひとりひとりのレベルとして、策定されたパーパスに紐付いてマインドや行動が変わっていくと良いなと思います。

 

西:せっかくパーパスを作っても、神棚に飾っておくような感じになってしまうのは、すごく残念ですよね? そうはしたくないという気持ちはずっとあったので、パーパスを実現するに当たって大切にしたい価値観=バリューズ、そして行動指針もセットだという意識で、力を入れてまとめました。バリューズのひとつ“感謝と敬意”は、特に重要だと思っていて、ステークホルダーのみなさんに対してはもちろん、一緒に働く仲間たちに対してもきちんと敬意を持って接しているか。これを入れることが、みんなでやっていこうというメッセージになっているんじゃないかと思っています。

 

丹羽:今、西さんは“神棚”とおっしゃいましたが、“額縁パーパス”というような言葉もよく使います。飾りで終わらせないためには、いろいろな人を巻き込むことも大事ですし、一段階下のバリューや行動指針に落とし込んで、“このパーパスのために一生懸命やっているよね?”という気持ちをみんなで共有することも重要です。私たちは、パーパス経営には(1)発見、(2)共鳴、(3)実装という3つのステップがあると考えていて、“発見”とはパーパスを作るために自分の会社を再発見すること。パーパスができたら、文言をただ頭で理解するだけではなく、ひとりひとりが自分の価値観との重なりを見いだしていく“共鳴”。そして、実際に経営に組み込んで、経営指標などに反映していく“実装”。この3つのステップを踏んでいけば、パーパスは自ずと実現していくと思います。

 

 

西:“共鳴”というステップで言うと、ちょうどそのタイミングだと思うんですが、離職率がずいぶん下がったんです。それまで事業部毎にあったIT人材を一つの大きな集団に統合しました。すると、各自が特定の部門だけではなく、全社的にいろいろな可能性に向き合うことでモチベーションが上がったようです。私自身は経営企画を担当していて、今まさにその“実装”に取り組んでいるところですね。パーパスをいろいろなレベルで分解して、各レイヤーに落としていく。そうやって細かく分解していかないと、全社員に浸透していかないのではないかと思います。ここから先、各事業部の指標や目標数値などにパーパスの考え方がどんどん落ちてくると思うので、これからが本番ですね。

 

丹羽:“実装”というと、何やら難しいことのように思われがちですけれども、「パーパスが実現したら、どんなことになるんだっけ?」と考えるといいですね。みんなが一生懸命パーパスに沿って働いていると10年後、どうなっているか。どんな会社になっているとワクワクするかと理想の将来像を描いていって、今度はそれを5年後は、3年後は、1年後は?というようにバックキャストしていきます。すると、この部門だったら、こういうサービスを開発する必要があるよね?こことここは組織を統合した方が良いよね?と、パーパス実現に向けた取り組みがより具体的になっていきます。

 

西:実はマイナビも、2030年ストーリーというものを作っています。2030年に、こうありたい姿というものを明確にして、そのためには今どうするかといったことをまとめている最中です。マイナビには“未来が見える世界をつくる”というビジョンがあって、これからはもっとイノベーティブに変わっていこうという、決意表明の言葉と言って良いかもしれません。ですから、なおさら実装が大事で、新たなサービスがこれからどんどん出てくることを期待しているところです。

 

個人と会社、双方のパーパスが一致すると働き方も自ずと変化する

 

 

丹羽:会社が変わっていくためには、社員のみなさんのモチベーションが上がることが重要ですよね? 会社のパーパスと個人のパーパスが一致していると、社員は生き生きと働けるようになり、パフォーマンスがぐっと上がることが分かっています。とはいえ、“あなたのパーパスは何ですか?”と聞かれて、すぐに答えられる人はあまりいないと思います。それでも普通に生きていくことはできますが、せっかくなので自分のパーパス、生き方の軸になる北極星のようなものを考えてみるといいことがいっぱいありますよと、私はお伝えしたいです。著書には個人のパーパスも大事ですと書いてはあるのですが、企業が社員のパーパスについてお金や時間を使うようになるかどうかは、実際疑問ではあったんです。でも、最近では社員がやりたいことと会社が取り組むことが繋がっていると、全体としてのパフォーマンスが大分違ってくることが理解されて、会社として個人のパーパスを見つけることに投資するようなケースが増えてきています。

 

 

西:個人のモチベーションを上げることに繋がるのではないかと思うのですが、マイナビでは社員が新規事業を提案し、コンペでグランプリを取ると事業化の権利を獲得することができるというプロジェクト“MOVE”を始めています。昨年の第一回の応募数は想定の5倍ぐらい来て、3つの企画が通り現在事業化に向けて準備をしています。彼らは新領域開発室という部署に所属して、リサーチからマーケティング、ホームページ作制など何でも自分たちでやらなければなりません。正直大変だとは思いますが、会社がそこまでやらせてくれるんだという期待は感じてもらっているようです。パーパス策定と並行して社内制度の見直しとかいろいろなことをやりましたが、この“MOVE”は特にパーパスとの結びつきが強かったなと思っています。

 

丹羽:最近、ウェルビーイング経営というキーワードもよく聞かれるようになっています。今の新規事業のお話は、社員のウェルビーイング、自分の強みを活かす、やりたいことをやるということを会社がサポートしているという意味でも、会社・社員の双方が幸せを手にすることができますからいいですね。今日はマイナビさんの実装への取り組みについて伺えたのがとてもよかったです。そこまで踏み込んでいる企業は、まだそれほど多くはないと思います。実装と共鳴のどちらを先にするかは、企業によって違うかもしれませんが、とにかくパーパスを策定したところで終わってはいけないということを、この記事の読者のみなさんには特にお伝えしたいですね。そして、個人としては自分の中で大事にしていることをしっかり持っておくといいと思います。それを今の会社でこういう風に活かすということがわかれば、日々楽しくなりますから。一度立ち止まって、考えてみるといいのではないでしょうか。

 

西:今日は丹羽さんとお話しして、私も経営企画に携わる者としてはこれからが本番というか、パーパスを現場の社員ひとりひとりにまできちんと落としていかねばならないということを改めて強く感じました。人事の評価や社内異動といった組織作りもそうですし、サービスやセールスのあり方など、パーパスの下に全部繋がっていくものですので、ますます頑張らねばいけないなと思いました。今日はどうもありがとうございました。

 

(まとめ)

仕事は苦しいもの、歯を食いしばって頑張らなければいけないものというのが今までの常識だったはずだ。しかし今、そんな働き方では企業がさらに成長できないこと、社員が心から幸せになる真の働き方改革が実現できないことを多くの人が感じ始めている。個人のパーパス、そして企業・組織としてのパーパスの明確化は、そのための大事な一歩になりそうだ。

 

構成・文:定家励子(株式会社imago)

写真:吉永和久

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事
新着記事

トレンドnaviトップへ