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会社は人がつくっていくもの。キャリア伴走型で就活・人材教育を支援する ニトリの強さとは?

株式会社ニトリホールディングス 天野 隆太 × 株式会社マイナビ 高橋 誠人

「お、ねだん以上。」の商品を提供し、私たちの生活を豊かにする企業・ニトリ。「就活はニトリからスタートするといい」という口コミが学生に広く伝わり、マイナビ・日経大学生就職企業人気ランキングでは2年連続で文系総合1位を獲得。その強さの秘密はどんなところにあるのか。マイナビ編集長の高橋誠人がニトリの新卒採用部シニアマネジャーの天野隆太氏に伺った。

学生と伴走しながら、人生で実現したいことを見つけていく

 

高橋誠人(以下、高橋):もう25年以上前になりますが、私が学生時代に就職活動をしていたときから企業名は存じ上げていました。今ではQOL向上のため、日々店舗にうかがい商品を購入させていただいています。最近はコロナ禍の影響もあって学生たちの就労観はずいぶん変化したと思います。先行きが見えにくい時代においても、ニトリさんが就職したい企業のトップになるというのは、「家具や日用品を売っている企業」というイメージを良い意味で打破するような情報を発信して、それが学生に効果的に伝わっている。「この企業に入って成長したい」「この企業で幸せになりたい」という思いを持てるからではないかと思います。ランキング上位の企業にヒアリングさせていただくと、共に明るい未来を創っていくというメッセージを、しっかり学生に届けているのを感じます。

 

天野隆太(以下、天野):実は私たちは、自社の採用という観点で採用活動をしていません。大切にしているのは、あくまでも学生のキャリアを支援するということ。就職は人生において重要なターニングポイント、ゴールではなくスタートです。学生が社会人になる上で必要な知識や技術、考え方をリクルーターが支援しながら、その人の本来持っている価値観を一緒に掘り起こし、伴走しながら人生で実現したいことを一緒に見つけていく。それがニトリのリクルーター制度です。一般的にリクルーターは自分の本来の仕事と兼業で実施されるケースが多いと思いますが、ニトリは専業で70人余りいます。ニトリでは、学生のキャリア支援は専業じゃないとできない仕事、と捉えています。

 

 

高橋:専業とは驚きました。そのリクルーターの存在が、採用ではなく、学生のキャリア支援を目的としていることがさらに驚きです。終身雇用や年功序列というようなシステムが、変化のスピードが速い今の時代に合わなくなってきている中で、自分のキャリアを主体的に作っていくのは非常に重要です。私も日ごろ、大学や高校で、学生や生徒、最近は保護者・教職員に向けて講演をすることがあるんですが、自分のキャリアをどうやってつくっていくかを主体的に考えるべきだと伝えています。ニトリさんで働きたいと考える学生が多いということは、ニトリさんの採用・育成方針や理念(採用<キャリア支援)に学生が共感しているということでしょうね。

採用ではなくキャリア支援を第一目標とするニトリのインターンシップ

天野:キャリアを考える上でよく言われるWill/Can/Mustという言葉がありますよね。自分はどういう状態になっていたいか(Will)、そのために何ができるようになる必要があり(Can)、そのために何をしなければならないのか(Must)。一般的なインターンシップでは、Canが中心になりますが、ニトリは逆算型で、インターンシップでは自分を知る、価値観を掘り起こすWillから始めます。ワークを通じて自分の過去に遡り、その時自分はどんな気持ちになったのかを言語化していき、それを仕事で実現するならばどんなことができるか、を考えるのが最初のステップです。このインターンシップでは、毎年約3万人の学生を受け入れています。ただ、参加後に選考へ参加してくださる方もいれば、参加されない方もいらっしゃいます。でも私はそれでいいと思っているんです。学生自身がどの業界、どの職種で働きたいと意志を明確にすることがキャリア教育ですから。ニトリにもどのような企業になりたいかという想いがあるので、それが一致した方々が次のステップに来てくださったら嬉しいですね。

インターンシップには、学生たちがチームを作り、活発な議論を戦わせ会社への提言をまとめるコースも

高橋:キャリア教育は高等教育機関(大学)で2009年から行われていますが、様々な事情があり、どうしても理論に偏りがちです。インターンシップや地元地域と連携しているケースもありますけれど、卒業後のキャリア形成に役立つまでは至らず、経験して終わってしまうパターンも多いと聞きます。でも、学生はニトリさんのインターンシップに参加するとそれまでキャリアに関して学んできたことの答え合わせができるんですね。すごくきれいな流れができていると感じます。「就活はニトリからスタートするといい」と言う人が多いのもわかります。

見えているのは企業の一部。大事なのは、見えていない部分のマッチング

 

 

高橋:学生が自分に合った会社を見つけたいという気持ちは、先行き不透明感が高まったコロナ禍を経てますます強くなっていると思います。社風や働いている社員はどんな人たちなのかを重視する傾向も強く、インターンシップに参加する学生は8割を超えています。先程天野さんは、ニトリさんのインターンシップはまずWillだとおっしゃっていましたが、そのほかにも4つのコースがあったり、大学1・2年生向けのプログラムも用意され、一人でも多くの学生のキャリア形成に伴走したい、という熱意が伝わってきます。これらはどういった経緯で生まれたんですか?

 

天野:高橋さんが今おっしゃったように、コロナ禍がきっかけですね。オンライン化したのも他社と比較して早いほうだと思いますし、それによって受講人数が8千人ぐらいから3万人に一気に増えたので、もっとコースを増やして充実させようと考えました。それでできた5つのコースでは、先ほどお話ししたように、まずWillで自分を知った上で、次はCan。自分自身が大切にしている価値観があるように、企業にも何を実現したくて存在しているかという目的があります。学生側から見えているのは人気の商品や企業認知度など一部の側面です。でも、見えていない「何を実現したくて存在しているのか」という部分も一致しないと、その企業で働く意味がないのではないかという話をするんです。一致しないと感じた方は、先ほど申し上げたようにインターンシップには参加したけれど、その後の選考に進まない場合もあります。ですがどんな選択を取ったとしても、ニトリとはどんな会社で、どんな想いをもって仕事をしているのかがわかっていただけただけでもいいと思っています。

 

 

高橋:なるほど。よく学生から“その企業の内定を取るためには、インターンシップに行ったほうがいいですか?”と聞かれるんですが、自分の卒業後のキャリアをより鮮明にイメージするためには、行ったほうが有益だと答えるようにしています。学生にとっては内定を取るため、企業にとっては採用するためになりがちなインターンシップですが、御社の場合、自社が何を実現するために存在しているのかを知ってもらうという側面もあるわけですね。専業のリクルーターがいること、そしてこのインターンシップの取り組みなど、学生に対するリソースの投下量、熱量には感服します。情熱とリソースを割いて臨んでいるからこそ、学生たちにメッセージが伝わるんだなと思いました。ちなみに、インターンシップは、どのようなバリエーションがあるんですか?

 

天野:マイナビさんも後援されている“学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード2023”で入賞したINNOVATIVEコースが人気です。商品開発と事業立案のいずれかのコースを選んで全国各地から集まった学生同士でチームをつくり、“現状全否定”というテーマのもと、ニトリの未来を創るために活発な議論をしてもらいます。途中で担当社員がついてフォローもするのですが、たとえば商品開発コースではニトリの市場調査室の助けを借りて市場調査の学びを入れることもします。優秀なチームは最後に東京本部にお呼びして、COOの前でプレゼンしてもらう機会もあります。このコースは、参加された方が入社される割合も高く、学生に喜ばれているということだと思います。

リクルーターは“会社の未来を創る仕事”

 

高橋:学生にとってニトリさんと言えば、普段の生活で接することの多い日用品や家具を販売しているお店というイメージを持っている方が多いと思います。しかしインターンシップに参加することによって、「製造物流IT小売業という独自のビジネスモデル」を実際に体験できるんでしょうね。そこでキャリア観や視野が広がって、社内でいろいろなスキルを身につけて自己成長やキャリアアップができるんだ、というメッセージが伝わるんだと納得しました。

 

天野:ニトリの社員教育で重要なものに“配転教育”というものがあって、どの社員も数年おきにさまざまな部署・職種へ配転されます。一人ひとりが幅広い経験と多様な知識を得ることで、常に組織が活性化されるように考え出された仕組みなんですが、今高橋さんがおっしゃったとおり、製造からIT、小売りまで一貫して手がけている企業だからこその教育です。ずっと一つのことを専門的にやっていきたいという人には合わないかもしれませんが、社会人になって自分の可能性を広げていきたいと思う人にはマッチすると思います。

 

高橋:入社後の社員教育でも、キャリア支援の姿勢が徹底しているんですね。そのような企業文化があるという意味でも、採用活動におけるリクルーターの責任も重大ですね。

 

天野:いつもリクルーターには、“会社の未来を創る仕事だ”と言っています。最初に申し上げたようにキャリアを支援するのが目的ですから、時にはキャリアカウンセラーといったコンサルタントの資格を持っているニトリ社員に話をしてもらい、どうやって学生の本音を掘り起こすべきかなどを学んでいます。ニトリでは入社後も、配転でさまざまな部署を経験しながら、やりたいこと、なりたい自分を見つけていくことができます。会社は社員のやりたいことを理解し、学びの機会を与えてくれます。入社前も後も世界で一番あなたのキャリアを支援する企業でありたいと思っています。それに従って、採用活動におけるリクルーターという名称もキャリアアドバイザーとでも変えようかなとも考えているんですが、どうでしょうか。

 

 

高橋:ワクワクしますね。新しいネーミングを“ニトリ発”で発信していくと、学生への影響はもちろんのこと、他の企業へも影響がありそうな気がします。時代の変化が激しく、学生のキャリア観も常に変化しているので、採用活動も試行錯誤を繰り返しています。

 

天野:私は、インターンシップで最終発表を聞くのですが、1・2年生の参加者で、自分はこういう目的があってこの大学に入ったけれども、インターンシップに参加してもっとこういうことが学びたくなったという方もいました。また、3年生の参加者で、自分は卒業して就職するつもりだったけれども、もっと勉強したくなったので大学院に進もうと思うと決意を述べられたときは涙が出そうになりました。自分のキャリアを主体的につくっていくことが大事だと高橋さんが最初の方におっしゃいましたが、どんな人にも主体的に動いた経験はあるんですよね。そこをリクルーターが伴走しながらどれだけ掘り起こせるかということを大事にしています。物や金は残りませんが、人は残りますし、会社は人がつくっていますので。

 

高橋:マイナビは人材情報会社ですが、今回お伺いしたニトリさんの学生に対する姿勢には本当に学ぶものが多かったです。マイナビもパーパスを「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」と定めており、共感する点が多いとも感じました。誰でも、どんな企業でも真似をできるというわけではないと思いますが、何かひとつのエッセンスでも実践することができれば、結果的には全国の企業への発展、社員全体の幸せに繋がるのではないでしょうか。最後になりますが、学生へのメッセージがあればお願いします。

 

天野:今は情報過多ですよね。知っておいたほうが良い情報と、ただ踊らされているだけの情報があると思います。そんな中で、若い方たちには必要なことを見極めて、自分自身の夢を実現できるように考えて仕事をしてほしいなと思います。夢は、あまり喋りたくない、恥ずかしいようなイメージもあるかと思いますが、夢があるから仕事を頑張れる。何のために自分は働いていたんだっけ? 暮らしをもっと豊かにするためだった…と、自分の本来の目的に立ち返ることができる人とできない人とではだいぶ違うのではないでしょうか。迷ったり、難しいと感じたりする方がいたら、是非ニトリを利用していただきたいと思っています。

 

(まとめ)

自社の採用活動において学生のキャリア支援をするという考え方を大切にする姿勢や、専業のリクルーターには“会社の未来を創る仕事だ”という自覚を促すという天野氏の言葉には、終始驚かされてばかりだった。“住まいの豊かさを世界の人々に提供する。”という企業理念は、このようなキャリア支援によってつくられる“人”によってこそ実現できるものなのだろう。今度店舗を訪れる際にはニトリに対する見方が変わりそうだ。

 

構成・文:定家励子(株式会社imago)

写真:小黒冴夏

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