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多様化する結婚式に合わせ大規模リニューアルに踏み切った老舗・八芳園の戦略とは?

株式会社八芳園 関本 敬祐 × マイナビウエディング編集長 片山 裕美

社会の多様化とともに、さまざまな分野において「個性」が尊重されるようになった。ウエディング業界も例外ではない。かつては「王道」と呼ばれる結婚式が存在したが、昨今では「自分らしさ」を大切にし、オリジナリティあふれる結婚式を望むカップルが増えているという。そこでマイナビウエディングの編集長・片山裕美が、創業から80年、結婚式業界を牽引しつづけている八芳園の取締役総支配人の関本敬祐氏と対談。伝統を守りつつおふたりに寄り添う八芳園のウエディングについてお話を伺った。

 

根底にあるのは「誰のために」「何のために」

 

片山裕美(以下、片山):今年の3月に行われた八芳園さん主催の「BEST PRODUCER CONTEST 2024」を拝見しました。この取り組みは、プランナーや料理、装花など6ジャンルから勝ち抜いた18人のファイナリストが3チームに分かれ、仮想のお客様のための結婚式を創り上げるというものですが、第3回となる今年は、地域連携をテーマにしたもので、とても素晴らしい内容でした。

どのチームもその地域が持つ特産物や資源を細かく取材し、それを活かした結婚式を作り上げていく、そうしたプロデュース力がお見事でした。

一方で、最近のカップルは、「結婚式」が自分にとって本当に意味はあるのか、価値があるのかということに悩んでいる人が多いように思います。そうしたお客様の中にあるウエディングの意味や価値を物語にしていくのが八芳園さんはすごくお上手で、それが強みになっていると感じたのですが、いかがでしょうか?

 

 

関本敬祐(以下、関本):それが伝わったのであれば、何よりうれしいです。八芳園ではスタッフ全員が、それは誰のために、何のためにやるのかということを重視します。売れる商品、売れない商品を判断する際に、世の中のトレンドもひとつの判断基準だと思いますが、我々が売れる、売れないを考えるときの軸は、「誰のために」と「何のために」です。いくらトレンドを押さえていても、それがなければ結果に出ます。結局、一番大切なのは自分たちが納得していて、お客様に自信を持ってご提案できる商品なのかということ。そして、それを実現するのは、お客様からいろんなことを聞き出す力が重要なんだと思います。ですから、私は普段から「なぜ?」という言葉を使いますし、スタッフにも「1つの質問に対してなぜを3回繰り返しなさい」ということを言っています。

 

1つの質問に3つのなぜ?

 

 

片山:それは、3回聞くことによってお客様の中に隠れていた何かが掘り起こされて、出てくるかもしれないからですか?

 

関本:はい。ただ、聞き方が大切です。なぜ、なぜ、なぜと突き詰めてしまうと、聞かれるほうは気分が悪いじゃないですか。ですから、トレーニングじゃないですけど、日頃から「なぜ?」をチームの共通言語のようにして繰り返し使ってコミュニケーションをとっています。聞きすぎると、相手は嫌な思いをするんじゃないかと考えがちですが、聞き方を間違えず、答えを導くことができれば、お客様は初めの5分くらいは答えづらいこともあるかもしれないですけれど、10分を過ぎたあたりから聞かれることが心地よくなってくるんです(笑)。ですから3回聞いて掘り下げるというのは、我々の共通言語で、現代表取締役社長の井上が総支配人の頃から、ずっと続けていることです。

 

片山:最近は、自分らしい結婚式、ふたりらしい結婚式を作りたいと望まれるお客様が多いと聞きますが、案外お客様自身も自分らしいとは何かがわかっていなかったりしますよね。ですから、それを掘り下げてもらえて、ふたりだけの結婚式を作っていけることはすごく喜ばれるでしょうし、八芳園のスタッフのみなさんが、それを聞き出す力やプロデュース力を持っているんだなと、「BEST PRODUCER CONTEST 2024」を拝見して改めて思いました。

 

2025年に生まれ変わる八芳園

 

片山:八芳園さんのこうしたプロデュース力をより発揮するために、大きなリニューアル、リブランディングを行っていると伺いました。チャペルなど施設のリニューアルもそうですが、衣裳などについてもおもしろい試みをされるそうですね?

 

関本:はい。結婚式はまず式場を選定してドレスを選ぶのが一般的ですが、八芳園で結婚式をしてくださる新郎新婦のために、八芳園の空間に合う衣裳を用意する専属の衣裳室が必要と私が提案しました。そこから核になっていただくパートナーさんを探してお話ししたところ、「それ絶対おもしろいからやろう」ということになり、来年の3月には実店舗としてオープンできることになりました。

 

 

片山:その店舗をオーダーメイドウエディングやフォトウエディングのジャンルにおいて、いま日本でもっとも注目を集めているクリエイティブディレクター・飯島智子さんが担当されるそうですね?

 

関本:はいそうです。実際の運営をフォーシスアンドカンパニーさんにしていただき、クリエイティブディレクターとして飯島さんに入っていただく予定です。ただ、それだけですと八芳園の専用店舗という意味が薄まってしまうので、弊社のトップスキルをもつウエディングプランナーがドレスショップに常駐し、八芳園で結婚式をするために一番いい衣裳を選ぶサポートなどをしていきたいと思っています。

 

片山:八芳園さんならではの空間やその場所で結婚されるおふたり、そして、そこに流れる時間にしっかりとマッチする衣裳をお勧めできるということですね?

 

関本:そうですね。会場の特性や、披露宴の内容がどういったものなのか、しっかり把握しお手伝いをさせていただくことになります。

 

1日のイベント用ではない「生涯式場」の提案

 

片山:八芳園さんでは結婚式だけではなく、結婚記念日のお食事や、七五三などお子様のためのイベントなども行える、「生涯式場」という言葉を発信していらっしゃいますよね? そういったコンセプトもリニューアルには盛り込まれているんですか?

 

関本:はい。我々が見ているのは、結婚式のその1日だけでなく、そこから始まるその先の未来です。「生涯式場」という言葉自体は、私もずっと言い続けてきてはいたんですよね。ただ八芳園には結婚式以外でも、食事会や家族のイベントなどでたくさんのご夫婦やご家族にご利用いただいているのに、実態としてそのことと結婚式がきちんと紐付いていなかったんです。そこで「生涯式場」を我々はどうとらえていくべきかとなったときに、「結婚式は人生の中でもっとも美しい記憶であるべき」という考えにたどり着きました。ですから新しく建てるチャペルも、チャペルという名前ではなく、セレブレーションホールとして、お客様とお祝いをしながら人生を一緒に積み重ねていく場所を作っていこうという、新しいコンセプトでリブランディングをしました。八芳園はLTV(顧客生涯価値)に思いきって舵をきっていこうというのが、今回のリニューアルのブライダル業界全体としてのテーマになっています。

 

セレブレーションホール完成イメージ

 

片山:お客様からいろいろ話をお伺いして、その人の中にあるお祝いごとの意味や価値を引き出し、物語を一緒に積み重ねていくという作業というのは、これまでの自分たちにしっかり向き合うと同時に、未来の自分たちを作っていくことですよね。自分たち夫婦がどうありたいかとか、どういう人生を作っていきたいかっていうところにも、自然とつながっていくんじゃないかなと思います。そう考えると今回のリニューアルで、八芳園という場所がさらに特別なものになっていきそうな気がしまね。

 

関本:そう思っていただけるようになると思いますし、しなくてはいけないと思っています。それがほかの会場との差別化にもなり、結婚式全体の価値を上げることにもなる。それは単価を上げるとか、表層的なトレンドで選んで結婚式を作っていくという話ではなくて、結婚するおふたりの長い人生の中で、八芳園という舞台で式を挙げることが価値のあるものだと思っていただけるようにしていくということです。

 

インバウンド需要から見えてくるもの

 

片山:コロナ禍以降、外国から多くの方が日本を訪れるようになりました。そうした海外の方々は我々日本人よりも、日本文化に価値を見いだしてくれているように思うのですが、八芳園さんもインバウンド事業についてはさらに積極的に取り組まれていかれるのでしょうか?

 

関本:おかげさまで、インバウンド事業は好調で、ビジネスユーザーの方々にご利用いただくスキームはほぼ出来ていると言えます。第2段階としては、ハネムーンの中に組み込んでいただくといったことを考えています。そのときもやはり、単に挙式やフォトウエディングというポイント的な利用ではなく、八芳園という空間で1日を過ごすことに価値を見いだしていただけるにはどうしたらいいか、そうしたことも含めて考えていきたいと思います。

 

片山:インバウンドの方々の挙式の話を伺うと日本人よりも日本文化を楽しみながら取り入れていくといった意識があるように感じます。逆輸入じゃないですが、そうしたことによって、日本人の若いカップルの日本の美に対する意識がアップデートされて、和装婚のよさに気づくということもあるんじゃないでしょうか?

 

 

関本:おっしゃる通りだと思います。ただ今回、リブランディングする上でいろいろ調べて見ると、やはり着物業界の中には、着物ならではの決まりというか、スタンスというものがたくさんあるんです。でも実際に結婚式を挙げるお客様は卒業式で袴にブーツを履く世代だったりしますから、和装婚に対してもいろいろな新しいことを取り入れたいとお考えになる。八芳園では伝統を守るだけでなく、そうした要望に対してもポジティブにチャレンジしていきたいと思っています。

 

片山:革新的な要素を加えてこそ、伝統文化の魅力は輝きますよね。今の若いユーザーの感覚にマッチする和装での結婚スタイルを、マイナビウエディングでもご一緒に提案できたらいいなと思います。そういえば、リニューアルに向けてオリジナルの着物を作っていらっしゃると伺いました。これも大変なチャレンジですね。

 

 

関本:オリジナルの着物を作るといっても、着物文化をしっかり継承していくことは必要だと思っているんです。本物を絶やしてしまうと、結局その先に継承していくものの方向が変わってきてしまう。日本の結婚式というものをしっかり守って継続させていくということも我々のもう一つのミッションだと思っていますので、本物を扱うというところはかなりこだわって、新しい着物を作っています。

 

片山:そういうお考えが根本にあるからこそ、日本国内だけでなく海外からの注目度も高まると思います。これからも日本のウエディング業界を引っ張っていってください。来年のリニューアル、本当に楽しみですね。今日はありがとうございました。

 

 

(まとめ)

過去にいい時代があった企業や組織は、当時から続く伝統ややり方を守ることが目的になってしまうことがある。しかし、古いものを守っていくだけでは、生き残っていくことはできない。八芳園のように守るべきものは守りながらも、時代ごとに変化していく顧客のニーズをしっかりとキャッチし、自分たちの目的を見失わずにいることが、顧客から長く愛される秘訣なのではないだろうか。

 

構成・文:濱中香織(株式会社imago)

写真:小黒冴夏

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