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返礼品、節税だけではない“ふるさと納税”のその先へ。自治体、そしてポータルサイトの役割とは?

紋別市 斉藤 聖人・神 大登 × 『マイナビふるさと納税』山田 拓生・西島 圭亮

“自分の生まれたふるさと”や“応援したい自治体”を選んで寄付をし、その代わりに返礼品を受け取る“ふるさと納税”。このふるさと納税の寄付金額で21年に全国1位、22年では全国2位になったのが北海道の紋別市だ。ふるさと納税への取り組みや思いについて紋別市の担当者に、紋別市のふるさと納税におけるPRを支援する“マイナビふるさと納税”サイトの担当者がうかがった。

個人が対象のふるさと納税だからこそ、求められる返礼品の形がある

マイナビ・山田拓生(以下、マ・山田):『マイナビふるさと納税』は昨年11月4日にサービスローンチをしました。以前より、マイナビの他のメディアを通じて関連記事の配信も行っておりましたので、それらがユーザーの方々にとってふるさと納税、ひいては紋別市のことを知るきっかけにもなっていたのではないかと思います。そんな中、私たちが紋別市のふるさと納税のご担当者とお話しさせていただいたのは、確か昨年の9月、10月ぐらいでしたよね? その時印象的だったのは、“もうマイナビさんと一緒にやることは決めているから”という言葉でした(笑)。そういう判断のスピードというか、さまざまな情報の感度がすばらしいと思った記憶が鮮明に残っております。

紋別市総務部企画調整課 ふるさと納税係 係長 斉藤聖人氏

紋別市・斉藤聖人(以下、紋・斉藤):そう言っていただけるとうれしいです。しかし、紋別市はふるさと納税という制度が始まった当初から参画していましたが、最初は市役所でも担当者が他の仕事と兼務でやっているような状態でした。当時、ふるさと納税のポータルサイトはもちろんまだなかったので、関連企業や人脈を頼ってDMを送るなど、地道な繋がりをたどって自前で寄付を集めていたという状態だったんですね。そのうち、ポータルサイトもどんどん誕生し増えてきましたが、基本うちのスタンスは寄付者さんの窓口はいくつあってもいいというものでした。そんな中でマイナビさんもやるのかと。だったらやらない手はないなという感じでしたね。

マ・山田:ふるさと納税が始まった当初は他の業務と兼務しながらだったというのは大変だったかと安易に想像できますが、そんな中、令和元年度21億、翌年77億、3年目には135億とすごい拡大率ですよね。そんなに多くの寄付金を集めることができるようになったのは、ポータルサイトの窓口をどんどん広げていこうというスタンスだったという背景もあるかと思いますが、返礼品の魅力も大きいかと思います。カニやホタテなどの海鮮はもちろんのこと、お米も人気ですね。『マイナビふるさと納税』サイト上でのユーザー動向を見ていると、コロナ禍でなかなか旅行に行けなかった時期は、紋別市を応援することで北海道の美味しいものを返礼品として受け取りたい。そういうファンが全国にいるんだなということがよくわかりました。そのような魅力的な返礼品をそろえるというのは、市役所の担当者だけではなく、返礼品を用意する事業者さんとの協力体制が確立されていないと難しかったと思いますが、そのあたりは振り返るといかがでしょうか?

マイナビ コンテンツメディア事業本部 ふるさと納税事業部 事業部長 山田 拓生

紋・斉藤:市役所には市内の事業者と関係の深い部署があるので、そこに繋いでもらって足を運び、ふるさと納税の仕組みについて説明しながら協力してくれる事業者を増やすといったことが基本です。ただ、私が担当する中で思ったのは、事業者さんは業界のプロフェッショナルで、ものを流通させる小売りという面ではプロなんですが、ふるさと納税の立場からすると、そういうプロが売れると言ったものが必ずしも選ばれるとは限らないというのが難しい点ですね。“○kgでこの価格で出せるんだから、みんな喜ぶはずだ……”と言われても、ふるさと納税は個人の方が対象なので、海鮮が一気に大量に届いても消費しきれません。パッケージを小分けにしてほしいとか、ジッパー付きで少量ずつ冷凍庫から出せるようしたいなど、思考を個人の方に合わせてもらうのには、少し苦労しました。

紋別市総務部企画調整課 ふるさと納税係 神 大登氏

紋別市・神大登(以下、紋・神):紋別市は導入当初からふるさと納税に取り組んで来ましたが、日本中で寄付者が増えてくるにつれて、今はリピートしてもらうということも重要なポイントになってきたかと思います。それは事業者さんに対しても同様で、今年とても質の高い人気の品を出していただいたから、また来年もお願いしますと。そうやって地道にお願いを続け、それに企業努力で応えて魅力的な品を提供し続けてくれる事業者さんあってこそですね。

寄付者と地域の交流を深めることが、ふるさと納税のひとつのゴール

マ・山田:おふたりがおっしゃったように、ふるさと納税の寄付金を増やすには返礼品の質の高さ、ラインナップの豊富さはもちろん大事だと思っております。この制度の仕組みの大きなポイントとして、寄付したお金をどこでどのように使ってほしいかを、寄付者が選べることがあります。ふるさと納税は年末にする人が半分ぐらいで、頻繁にするものでもないのに、紋別市の場合はリピーターが多いですよね。それは、返礼品の魅力もさることながら集まった寄付金をどのように使うか、その使途を応援したいという人が多いことも理由なのではないでしょうか。寄付がどのように使われているかを自治体のHPやSNSで発信して、それが紋別市の魅力に繋がり、寄付者がこんな風に使われるのだったらまた来年も寄付しようとか、今度は別の使途でも応援してみようとか。ふるさと納税は使途を選択しないとできませんが、そのあたりも紋別市はきちんと社会に周知されてますよね?

紋・斉藤:はい、いただいた寄付金に関しては本当にありがたいと思っていますから、どのように使うかは寄付者の方はもちろん、返礼品を提供いただいた事業者さんに対しても、きちんと発信していく必要があると思っています。紋別市のふるさと納税の寄付金に関しては、小中学校の給食費の無料化や高校生までの医療費助成など、医療・福祉または子育て支援の充実に関する事業をはじめ、現状8つの使途があります。中でもアザラシの保護活動等のオホーツク海の海洋環境に関する事業は、紋別市ならではだと思っています。というのも漁業を生業とする地域にとってアザラシは天敵なのですが、保護施設があるのは日本でも紋別市だけ。限りある市の財源の中からアザラシ保護に税金の一部を費やすというのはなかなか難しいのですが、ふるさと納税の寄付金があるからこそできたことで、アザラシをめぐる環境整備に繋げられているのはありがたいですね。実は、寄付されたことをきっかけに、アザラシに会いたいと紋別市を訪れる方もいらっしゃるんです。

マ・山田:それはうれしいですね。我々がふるさと納税に取り組んでいく中で最終目標としているのは、納税をしてもらって紋別市の返礼品を味わっていただき、紋別市はどんなところなのだろうかと興味を持ち、アザラシがいるんだとか、観光ができるんだと知って訪れてもらう。そういう人と地域の交流を作ることがゴールでもあるので、今のお話は参考になる良い事例だと思いました。

マイナビ コンテンツメディア事業本部 ふるさと納税事業部 ふるさと納税運営部 部長 西島圭亮

マイナビ・西島圭亮(以下、マ・西島):私たちが運営する『マイナビふるさと納税』は、“ひとりのオモイが、ふるさとのミライを紡ぐ”をキーワードに、ふるさとを元気にすることが、ひいては日本を元気にするという信念の下、取り組んでいます。寄付を集めることはもちろんのこと、返礼品の魅力を伝えること、寄付金が何に使われているのかを知ってもらうこともとても重要です。

返礼品には自治体や返礼品の魅力、返礼品を生み出している事業者の声やストーリーなどたくさんの情報が隠れています。集まった寄付金は地域課題を解決するために使われていますが、あまり知られていない取り組みが実はたくさんあります。

マイナビふるさと納税では返礼品情報や寄付金の使い道を記事化して配信するようなサービスを行っていますが、全国のユーザーと各地域を記事を介して情報で結ぶことができれば、いずれは思いが繋がり、実際に寄付した地域に足を運ぶことになるのではないかと思うんです。情報発信の部分についてはマイナビだからこそのオリジナリティを発揮できるよう、今後もっと注力していきたいですね。

ふるさと納税で地域の課題を解決する

マ・山田:西島が言ったように、ご契約いただいている自治体の地域の魅力をきちんと発信することは我々にとっての課題で、『マイナビふるさと納税』を単なるECサイトにしないという点でも意味あることだと思っています。メディアを通して、返礼品を提供する事業者さん、地元の住民の方々にもやってよかったという喜びを届けられるようにしないと、ふるさと納税の当初の意義が見失われてしまうような気がしています。

紋・斉藤:そうなんですよね。紋別市が寄付金額で全国1位になったのは、まさに紋別市の事業者のおかげです。今後の私たちの課題は、それをどのように使って市民に還元しているか、市民の生活にどんな恩恵が与えられているかの周知を行うことですね。さっきも言いましたが、ふるさと納税をきっかけに紋別市が取り組んでいるアザラシの保護について全国の皆さんに知っていただき、アザラシに会いたいと訪れてくれる人が増えれば、地元の活性化にも繋がります。ふるさと納税をきっかけに紋別市全体でそういう動きを盛り上げていくことを目指していきたいですね。

マ・山田:ふるさと納税の本来の趣旨は、地域格差をなくすことなのですが、最近は返礼品競争のようなことになってしまっているという側面があります。それも致し方ないことではありますけど、『マイナビふるさと納税』は、ふるさと納税をすれば返礼品がもらえて節税にもなるだけではなく、その先を訴求したいんですね。今斉藤さんがおっしゃったように観光に訪れる人が増え、さらにはここに住んでみようかなということにつながるような。つまり“交流人口”だけではなく“関係人口”も増やしていくことができれば、地域格差をなくすことにもなるのではないかと思います。

マ・西島:地域格差にはふるさと納税に関わる自治体職員の態勢課題もあると思っています。地方の自治体にはふるさと納税を他の仕事と兼務でやっている方も少なくないんですね。すると、どうしても十分に手が回らず、魅力発信や返礼品競争にすら参加できないという状況になってしまいます。そういった課題を抱えている自治体、地域をマイナビふるさと納税がサポートできるようにもなっていければと考えています。

紋・神:私と斉藤は、生まれも育ちも紋別市で生粋の紋別っ子なんですね。自分たちにとっては当たり前の風景、何もない町が、ふるさと納税を納めてくださった寄付者の方からすると、その何もなさが良いとか、のどかな風景が魅力的に映るんですね。そういう声が私たちの気づきにもなります。紋別市は、ふるさと納税の寄付金額が1位になったとはいえ、一般的な知名度はまだまだです。ホタテが届いたんだけど、どこの町のものかわからないというような声もよく聞きますし。そもそもふるさと納税は、できる条件を満たしている人の2割程度しかやっていないという市場でもあるので、我々自身がまず紋別の良さを知り、外に発信していかなければと思っています。

マ・山田:ふるさと納税をしたことがあるのは2割程度とおっしゃいましたが、ふるさと納税は、控除額はもちろん限られていますが、社会人1年目の人でもできるんです。たとえば地方から就職で都市に上京した方であれば、自分のふるさとがどのような取り組みをしているか見てほしいと思いますね。たとえ少額でも寄付をすることにより、自分が生まれ育った町を良くする、応援することができる良い機会になりますから。

 

(まとめ)

ふるさと納税への取り組みを、自治体とポータルサイトというふたつの視点から見ると、ただ、寄付金を送る、返礼品を送るといった単なる授受にとどまらない可能性が隠されていることに気づかされる。コロナ禍も一段落している今、ふるさと納税をきっかけに新たな地域交流が生まれることが、さまざまな社会課題の解決を導きそうだ。

 

【構成・文:定家励子(株式会社imago)】

【写真:高橋圭司】

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